はじめに ― 4月時点の懸念は「事実」だった
4月の投稿した「AIスタートアップ『オルツ』の会計問題と業界への波紋」では、
- 売上認識プロセスの脆弱性
- 監査法人の独立性への疑念
- AI業界全体の信頼低下リスク
の3点を指摘しました。7月28日に公表された第三者委員会調査報告書(以下、報告書)は、これらの懸念を裏付けるどころか、想定を大きく上回る規模と巧妙さを暴き出しています。本稿では報告書の主要ポイントを整理します。
粉飾の全体像とインパクト
累計約119億円の売上、128億円費用が“取引実態のない数字”として計上され、上場審査時点ですでに売上の8割超が虚偽だったことが判明しました。
<不正スキーム詳細>
1 「SPスキーム」――資金循環型 架空ライセンス売上
オルツ → 広告代理店・外部R&D業者へ営業支援金等を支出
同額が販売パートナー “SP” に還流
SP → オルツへ『AI GIJIROKU』ライセンス料として入金
実際の利用はほぼゼロ。帳簿上は「売上」と「広告宣伝費/研究開発費」が同額膨張。
2 「バーター取引」――相対勘定での水増し
2023/12期以降、外注先8社と “自社サービス×相手先サービス” を同額交換。
オルツは外注費を、相手先はライセンス料を計上し、双方の売上高・費用を水増し。
3 「個人業務委託者ビジネスプラン」――契約書改ざん型
フリーランス契約に月額20万円のライセンス加入を条件付け、売上と委託費を同時計上。
<IPO・スタートアップへの波紋>
影響領域 |
具体的な波及 |
IPO審査 |
循環取引・バーターに対するヒアリング項目の増加、審査期間の長期化。 |
監査実務 |
SaaS企業の売上実在性テストの厳格化。不正リスク対応手続きの増加。 |
業界イメージ |
“AIバブル”への懐疑と、パフォーマンス指標の中身を問う投資家姿勢の強化。 |
報告書は、オルツ社の事例を「資金循環で売上を創る典型的な循環取引型粉飾」と断じました。
AIスタートアップに限らず、①実在性・②継続性・③ガバナンスの3点を“見える化”し、市場の信認を獲得する姿勢こそが持続的成長の前提条件です。本件を「教訓」ではなく「転機」とできるか――業界全体の真価が問われています。
水野隆啓
浜松市/会計事務所/公認会計士/税理士/不正調査/オルツ/循環取引/バーター取引
- Posted by 2025年07月30日 (水) |
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